2009年1月28日水曜日
【猫哲学99】猫哲学超特別対談:猫恋愛論。
猫┃哲┃学┃の┃お┃部┃屋┃μ┃
(2006/05/05)
今回は、いつもと違って対談形式でお届けする。対談の相手はおなじみの超美女である。テーマは「恋愛について」。らしくないテーマである。私に扱えるわけがない。誰かに助けてもらおう、というわけで今日は、初めて彼女をわが家へ招待したのだった。
♪ピンポーン~
「おお、ようこそ。いらっしゃいまへ」
「おじまー」
「どぞ、ずいと奥へ」
「へー、こんなとこに住んでるんだー。意外にきれいにしてるね。けっこう広いし、いいじゃん」
「まあまあ、お茶でもいれるから」
「ぐにゃニャ」
「あー、きみが噂の猫ちゃんねー。おー、よしよし」
「このバカ猫。美人だとあっという間になつきやがって。やっぱり雄猫だな」
「ところでさ、招待してくれるなんてどーしたこと? 初めてじゃん」
「それなんだけどね、猫哲学もあと2回で終わりだから、やっぱり恋愛論をやっつけときたくてさ。ところが、オレには恋愛体験というものがない。そこできみの助けを借りたいわけ。はい謎のお茶」
「ごち。あら、不思議な香り」
「砂糖は?」
「いらない。でもさ、恋愛論なんて、知らないならやんなきゃいいじゃん」
「でもね、下手に知っているより、知らないほうがおもしろくなるかもしれないだろ」
「詭弁ね」
「おっしゃる通りだよまったく。でも、その方面ではすごく笑える話があるんだ。スタンダールという人が『恋愛論』って本を書いてるだろ」
「タイトルは知ってる。読んだことないけど」
「オレも。でね、このスタンダールって人は、知られてるだけで12回も女をとっかえひっかえ、独身のまま59歳で死んだ」
「あっはははははは」
「お隣に迷惑だからその笑い声はなんとかしてくれ」
「あはは、ああ苦しい…。要は、12回も失敗したわけでしょ。よくもまあ、その程度で本なんか書くわね」
「ほんと、そう思う。きみの助けを借りようと思いついたオレなんて、まだまだかわいいもんだと思わないか」
「そんな本が売れてるなんてのも、また不思議よね」
「そーなんだよ。不思議だろ。でもまあ、いくらなんでもスタンダールの同時代の人はわかっていたらしくて、バカにしてたみたいやね。あの本、初版は22冊しか売れなかったんだと」
「そんなもんが、なんで日本で有名なわけ?」
「知らんがな。悪しき舶来趣味の典型ってやつじゃねえのか。ひょっとしたらギャグ本として読まれているとか」
「恋愛って、本を読んだらわかると思っているのかしらねえ」
「そこなんだよ、オレが疑問なのは。ひょっとすると世間ってのはさ、恋愛について意外とよくわかっていないんでないかい、本当は」
「中国の映画で『初恋の来た道』ってのがあるの」
「おお、きみにしては高尚なとこから切り込んできたな」
バコッ!
「痛たたた。さいきん、やたら暴力的になってないか、きみ」
「その映画は文革時代の中国のど田舎が舞台なんだけどね、主人公の女の子が恋をするのよ。それが、村はじまって以来で初めての自由恋愛だって、村中が大騒ぎするの」
「文革というと、そんなに昔の話でもないよな。あ、そうか。オレの両親の時代でも、自由恋愛はお話の中だけのことで、結婚はお見合いがほとんどだったらしい」
「そのあたりの昔にはまだ新鮮だったのね、スタンダールさんでも」
「時代ってことかあ。でも、まだ売ってるぞ新潮文庫」
「で、そろそろワインが出てくるんじゃないの?」
「あ、まさかそれが狙いで…」
「それ以外に何があるわけ?」
「へいへい、わかりますた。ちょいお待ち」
「わくわく」
というわけで、別室からワインを持ってくる私なのだった。
「こんなでどう。1990のバローロ」
「ありがちだなー」
「きみはな、あっちこっちで贅沢しすぎなんだよ。それに、こいつはちっとスペシャルにゴージャスなバローロだぜ」
「まさか、ガヤ?」
「そうだがや」
「名古屋のイタリアワイン」
「うー、それは不味そう」
「わかったから早く開けて」
きゅっ、きゅっ。ぺり。ぎりぎりぎり、ぐいー、ぽこ。
「ガヤはコルクがちょー長うてかんわ。お、ええ香りだがや」
「さっさとしてよー」
「15年も寝ていたワインを、急がせるものではない」
「あ、でかグラス。さすがね」
「ほいよ。1杯目は、20分以上時間をかけてゆっくり飲むように」
「わかってるってば、くんくん。あ、いい感じー、幸せ」
「ということで恋愛論の続きをやろう。猫の恋、って言葉があるな。俳句の季語にもなってる」
「うほ、キャベツの香りだ」
「キャベツう?」
「ネッビオーロの開いたのは、キャベツの香りがするのよ」
「そういわれてみれば…。つーことは、バローロはお好み焼きに合うのかあ? 試してみたいような怖いような…」
「ね、もう一本開けてよ」
「贅沢やなあ」
「比較しながら飲むのが楽しいのよ」
「ほれさ、これまた1990で、サンジョヴェーゼVDT」
「何だ、用意してるじゃん。おー、フレスコバルディ」
「恋愛論はどうなった?」
「うわー、菊の香り。お葬式の」
「なんちゅーことを。形容がメタメタだ」
「甘くフルーティで優雅なフレーバーにほのかなヴァニラ香。なめらでいて凝縮感ゆたかなボディ。余韻はハープの音のように透明かつ複雑で長く遠く響き合う…、なんて言ってほしい?」
「気持ち悪い」
「でしょ」
「まあいいや。それより恋愛論」
「パンとチーズちょうだい」
「へいへいわかってます…。ほれさ」
「便利な家ねえ。これからもっと招待してよ」
「やだ。セラーがあっつー間に空になる」
「ケチ」
「そんなヒマがあるなら、他の男の相手もしてやれよ。喜ぶぞ」
「まあね。でも最近の男って、フランスワインばっかでさ。それもブルゴーニュ派が多くて。飽きた」
「恋愛論はどうなった」
「猫の恋ねえ。あれは、牡猫がパパッとやって、後ろも振り返らずにすたすた去っていくのがかっこいいのよ」
「ぜんぜんロマンチックでないな」
「人間の男がそれをやったら、確実に嫌われるわよ」
「ちょっと待ってニャ」
「なんだバカ猫、おまえも発言するのか」
「猫の発情期は年4回ニャ。短い期間にたくさんの雌猫としなければならないから、ぐずぐずしてられないニャ」
「あら、説得力あるわね」
「だからといって、誰かとゴロゴロしたいという気持ちは別のものとしていつも心にあるニャ。猫はそこのところを混同しないのニャ」
「ふむ、性愛と恋愛とは別の感情だというわけだな。なかなかに見事な論理だが、美人の膝にネコろがってしゃべるんじゃあなあ…」
「ニャので、その概念が混乱したままの近代俳句なんて、ぜんぶカスだニャ」
「おまえ、いつのまに牡猫ムルに変身したんだ」
「賢い猫ちゃんねえ。猫哲学って、やっぱりきみが書いてたのね」
「おいおいおい」
「猫の恋が春の季語って、どういうことよ。ジョークのつもりかな」
「そこがよくわからない。俳句界というのは、ときどきとんでもなく非論理的だからな」
「あ、夕張メロンの香りがでてきた。ほらサンジョヴェーゼ」
「そんなメロン、食ったことがないからわからん」
「あなたの食生活って、ぐちゃぐちゃに偏ってるわね。ワインにばっかりお金をかけてさ」
「ケチをつけるなら飲まさない」
「この世でいちばん悪いことはね、一度あげたものを奪い返すことよ」
「あげたつもりはないんだけど…」
「開けた以上はあたしのものよ」
「ふえーん。何か理不尽な気がする」
「これが世界の良識よ」
「あー、もう。だから恋愛論だってば」
「ふにゃあ」
「猫の口真似をするなよ。読者が混乱するだろ」
「ぐニャ」
「こらバカ猫、おまえまで調子にのって」
「パンをもっと切ってよ」
「…とにもう」
がきがきがき(フランスパンなので固い音)。
「対面型キッチンっていいわね。キッチンに立っても会話ができる」
「ほいさ、フランスパン。それでな、グーグルで恋愛論をキーに検索したんだ。そしたらさ、80万件もヒットした」
「読むのに1年かかるわね」
「それ以上だよ。パソコンがパンクする。オレにはよくわからないんだけどね、恋愛論を読めば恋がわかるのか」
「ば~か」
「じゃあ、なんだって恋愛論が百花繚乱なんだ」
「わからないからでしょ」
「はへ? 恋がわからないから恋愛論を読むんだろ? でも恋愛論を読んでも恋はわからない? どういう構造なんだよ」
「そんなもんじゃないの、恋にかぎらず」
「あ、そうか。哲学もいっしょか。本当にわかるものなら、議論そのものが必要ないもんな。恋と哲学とは似ているのか」
「恋には、そこに欲望とプライドと世間がからんでくるから、よけいにややこしいのよ」
「なるほど。哲学のほうが純粋なぶんだけ、単純ともいえるわけだ」
「どうかな。哲学だって、けっこういろいろとからんでない?」
「まあね」
「こないだあげた生ハム、まだ残ってるでしょ。出して」
「このワインに合うかな…」
「やってみなくちゃわからないでしょ。そんなんだから恋愛のひとつもできないのよ」
「うえー、生ハムの話でそこまで言われるか」
どしょ、がさごそ。バタン(冷蔵庫のドアの音)。
「ほい、どうぞ」
「ホントに便利な家ねえ。毎週こようかな」
「やめてくれないか。ご近所の噂になってしまう」
「ほらー、ワインに相性ぴったりじゃん、生ハム」
「自慢されてしまった」
「あ、バローロの味が変わった」
「これからがバローロの本領だぜ」
「よいしょっと。冷蔵庫の中を見ちゃお。あ、トマトみっけ。早く出してよね、もう。気がきかないなあ。うわ、ズッキーニだ。わお、ルッコラ。レタスもあるじゃん。包丁どこ?」
「左下のドアを開けて」
「オリーブオイルと塩」
「ちょっと待って、…ほい」
「ワインビネガーは? それとアンチョビ」
「もう。本格的に夕食を始める気かよ」
「こんなワインを飲ませといて、いまさらどこへ行けっていうわけ?」
さくさくさく、とんとんとん(包丁の音)。♪~
「歌っていやがる」
「ぼくもメシにゃ」
「だから猫の口真似をするなってのにまぎらわしい。おいバカ猫、メシにするか?」
「ふニャ」
「さあ、できたー。飲むわよー」
「なんだか恐ろしくなってきたぞ。で、恋愛の話だけど」
「ほんとに恋愛経験ないの?」
「ないよ。失恋すらない。片思いならなんぼでもあるけど」
「初心者マーク以下の人にF1の話をしてもねえ…」
「お、つーことは。きみはF1クラスか」
「あったりまえじゃん」
「そうかなあ。失恋経験はなさそうだけどな」
「あたしに、失恋経験がないとでも?」
「そう見えるよ」
「へん、あるわよ、それくらい」
「だからって自慢そうに言わんでも」
「あたしの経験からわかった真理のひとつはね、妻子のある男は必ず嘘をつくってこと」
「嘘?」
「そう。妻とは別れるとか家族とうまくいってないとか。そういうのにかぎって、週末は喜々として家族団らん」
「なるほどー」
「もうひとつの真理はね、妻子のある男が愛人をつくったら、必ずまた別の愛人もつくるってこと」
「きみにそんな切ない経験があったなんてねえ…」
「見かけで判断しないでよ。心は普通の女の子なんだから」
「普通じゃないと思う。どう考えても」
「あ、バローロが空いちゃうよー。とととと」
「底に澱があるから気をつけて…。おい、待てよ。オレは半分も飲んでないぞ」
「飲みましたー。ちゃんと見てたもん。女はそのへんシビアなんだからね」
「くそー、反論するにも証拠がない」
「それより、次のワインを持ってきてよ」
「まだ飲むのか」
「何を甘いこと言ってるの。これからが本番じゃない」
「あああ、恐怖の予感は現実になった。ぶつぶつ」
2分経過。
「これなんかどうかな。バルバカルロの1989」
「それ有名。こないだ飲んだし」
「あそ」
「引っ込めないでよ。誰が飲まないって言った?」
「ほよよよ」
「他には?」
「じゃ、これは? ネロ・ダーヴォラ1997。それともバルベーラの1998」
「よし、ネロくんいってみよう」
「本日の主題は恋愛に関する対談のはずだが」
「飲み会で、会話の中身が恋愛のことにすればいいじゃん」
「勝手に定義されてしまった。ほいさ、ネロくんどうぞ」
「あ、湿った野原の香りだ。タンポポの咲いてる」
「初めてまともに形容したな」
「ちょっと。気分がのってきたわ。BGMかけて」
「どんな?」
「やさしくて切ないやつ」
「ほんじゃモーツァルト」
(BGMスタート~♪)
「恋ってね、ワインのようなものなのよ」
「ありゃあ、えらく雰囲気の違うことを言うじゃないか」
「しばらく黙ってなさいっ!
…恋は、ひとつひとつぜんぶ違う。一本として同じワインがないのと一緒なの。はい、BGMちょいアップして。照明落として。
♪~<
それぞれに香りが違う、味が違う、色が違う。
時が経てば深みが増すけど、フレッシュなのもまたいい。
甘みがあるけど、渋みも苦みもある。
温度と光にデリケート。
適量は身体にいいけど、過ぎると身を滅ぼす。
好みのタイプはそのつど変わる。
大人にならないと本当の味はわからない。
雨のときには、いっそう恋しい。
そう、雨のときには…。ワインもそう…、恋もそうなの…。
はい、BGMフェードアウトして。
~♪>
そうして彼女は小さなため息をつくと、遠い目をして長い髪を掻き上げながら、彼に白い横顔を向けた…」
「と、口では言ってるけど、現実にはワイングラスをぐりぐり回しつつルッコラをぽりぽり食っておるのだ」
「もう、せっかく読者に夢を与えてあげたのに」
「その手にひっかかるほど私の読者は素直ではないぞ」
「あなた、ワインを定義できる?」
「葡萄からつくる醸造酒」
「それって、定義になってないわよね」
「なってないね」
「恋も一緒よ。定義なんか不可能。でも、定義できなくても確かにそこにある。定義するっていうのはね、小鳥を鳥かごに閉じこめるのに似てるわ。それで手に入れたような気になっても、本当の意味は死んでしまう…」
「酔っぱらってるか?」
「ぜんぜん」
「でも、えらく冴えてる」
「いつだってそうよ。バカにしてない?」
「それにしても、きみからさっきみたいなかっこいいセリフを聞くのは初めてだ。とてもしらふとは思えん」
「殴ってあげようか」
「遠慮しときます。だけどあの言葉って、哲学的じゃなくて詩みたいだけど、何となくまとめられてしまったような気がする。なんだか恋愛論を続ける気がなくなったなあ」
「そ。理屈なんて、やめときなさい」
「ということはだな、恋というワインと人生という料理がベストミックスになったときに、それをマリアージュ(=結婚)と呼ぶわけか」
「あらら、面白いことを言うじゃん」
「じゃあ最後に、オレにもひとこと言わせてくれ」
「どうぞ」
「恋に強い女は、ワインにも強い」
「あたしなんかもう、弱くて弱くて」
「大嘘をつくなー!」
「ほらほら、サンジョヴェーゼが空いたわよ、次の」
「へいへい、バルバカルロ」
「わーいバルさん」
「バルさん…」
「何か?」
「いや、話を落とすのがお上手ですね」
その日は、夜中まで飲んでしまった。午前3時を回った頃、かの超美女はこう言って去って行ったのであった。
「今日はこのくらいにしといてあげるわ。またね」
女は災難である。恐怖である。やはり私には、恋愛など無理だな。
[上の文章は、約4年前に書いたものです。][original from 【猫哲学HP】 http://nekotetu.com][mail to:nekotetu@mbr.nifty.com]
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿